"患者"と"医者"・前
昔から、弱者を虐げる役人が嫌いだった。
だから親友(とも)と共に門を叩いた。
──なのに結局、僕は何も守れなかった。
往生際の悪い奴だ。罵倒が聞こえたと同時に蹴り飛ばされた籠から野菜が飛び散った。部屋の隅で立ち竦んでいた童子は、びくりと肩を震わせて縮こまった。
幾許(いくばく)かの青菜とくず芋がごろごろと転がった先に、やせ細った女性が両手を額に付けてうずくまっている。恐怖に身体を震わせ、目の前で怒鳴り散らす男に平伏していた。
どうかお許しください。お願いします。か細い女の声が懇願する。
御覧の通り、我が家にはこれ以上差し上げるものがございません。夫も戦死し、まだ幼子を抱える身でございます。これ以上は、どうか、どうかご容赦を──。
言葉は途中で切れた。男が女の脇腹を蹴り上げたのだ。
おかあさん。隅で怯えていた童子は叫ぶ。悲鳴を上げて横に転がり、自分と同じ白い髪が床に散らばった。
腹を押さえてうずくまる母に、役人の衣を着た男は容赦なく二発目の蹴りを入れる。誰がお前たちを守っていると思っている。誰のおかげで生きながらえていると思っている。呪詛のように繰り返し罵声を浴びせながら、役人は弱った母を痛めつける。
おかあさんっ。声を張り上げ、童子は必死に手を伸ばす。
駆け寄りたくて、でも身が竦んでしまって動けない。
萎びかけていた青菜を泥のついた足が踏む。今日の夕餉になるはずの野菜がぐしゃりと踏みつぶされる。やめて。くしゃりと顔を歪ませて、童子は役人に訴えかける。
やめて。おかあさんを蹴らないで。
言っても男はやめなかった。顔を腫らして血を流す母を、血走った眼で痛めつけている。庇うように頭を庇って縮こまる母は、目に見えて弱っていた。
手足が震える。大きな大人を前にして、いつもいつも、自分はこんなにも無力で情けない。
このままじゃ、なのに。
そのとき、ふと手が何かを握っていることに気付いた。童子は自分の右手を見下ろし、はっと目を丸くする。手中には、驚くほど手になじんだ馴染んだ、大きな黒い傘が収まっていた。
怒鳴り声が響く。童子はそれを握りしめ、母を苦しめる悪党目掛けて駆けだした。震えはもうすっかり収まっていた。
やめろ────!
そうして童子は、役人に向かって黒い傘を──。
「────、」
冷えた空気が肺に入り込み、その冷たさに謝必安は目を覚ました。
即座に飛び込んできた燭台の吊られた天井をまじまじと見つめ、夢か、と長く息を吐く。当然だ、もう幾百も前のことになる。懐かしいどころの話ではない。
「昨日、あんなことがあったから……」
何度も傘で打ちつけられていた背は、大事ないだろうか。痣にはなっているかもしれない。
純粋な心配は、衣服から覗く赤い肌を思い出したところで不純が混じる。性(さが)というべきそれを自覚し、呆れるように首を振る。枕に広がる白髪がさらさらと音を立てた。
布団をきつく握りしめていた右手をそっと外し、謝必安は身を起こして立ち上がる。朝の空気を吸えば、やはり冷たい。折り目正しく畳んだ上着に手を伸ばす。
と、唐突に走った痛みに目を眇めた。反射的に息を詰め、脈打つような鈍痛をやり過ごす。
謝必安は恨めしそうに左肩を見下ろし、そして再度ため息をこぼす。
ゆっくりと袖を通しながら身支度を整え、ベッドに横たえられた片割れを手に取った。
その時、ぽつ、と雫が落ちる音が聞こえた。粒音は次第に増していき、やがて折り重なっていく。
「雨……」
無意識に柄を握る手に力が入った。そのまま離さぬように両腕で傘を抱えて、謝必安は外を覗く。
さざ波にも似た音を立てて、雨は庭に生える草木の葉を揺らす。この程度では今日のゲームは予定通り行われるであろう。謝必安は憂鬱を露わに肩を落とした。
嘆いても仕方がない。理由もなくゲームを放棄するのは、荘園主の機嫌を損ねる行為だ。数回なら見逃してくれるそうだが、繰り返せば罰が待っている。
そうは思うが、やはりこんな天気にやりたくはない。窓に近付き、曇天を見上げる。灰色に覆われた空から、小雨がしとしとと落ちてくるのがよく見えた。
「……ねぇ、無咎」
札の貼られた黒傘を撫でる。返事はないが、そこにいることはわかる。嵐のような豪雨だと、それすらも感じ取れなくなるのだ。
この中に、親友(とも)の魂がある。魂だけが、ここに。
何故なのだろう。数えきれないほど投げかけた疑問が、口をついて出る。
「穢れを洗い流してくれるはずの雨は、何故あの時、罪なんてない君を流していってしまったんだろうね?」
雨は降り続ける。
問いの答えは、ずっとかえってこないままだ。
◆ ◆ ◆
范無咎はいつにも増して不機嫌だった。
逃げる背を追いながら、廃病院の二階から飛び降りる。着地し、周囲を見れば白い裾が視界の端で翻った。顔にかかる雨に舌打ちをして、病院の外へと向かっていった相手を追尾していく。
左肩が怠い。腕が思うように動かない。集中も途切れがちだ。
理由ははっきりしていた。十日ほど前、ゲームで負った傷が原因だ。手当てはしたのだが、手の届きにくい背部であったことと連日のゲームにより悪化した。
人の身を捨てて久しいが、故にこれほどの痛みも久しかった。これほどまで現世に留まることなどなかったのだ。
懐かしさを覚えるが、それ以上に煩わしい。痛みはここ数日で酷くなる一方だった。
──まぁ、それでも。
「お前、本当にトロいな……」
「……自覚してるから言わないでちょうだい」
医生を捕らえることは容易いが。
壁を作ろうとして間に合わず、倒すことの叶わなかった板にもたれながら意気消沈とする女に、范無咎は僅かに哀れみの眼差しを送る。見かけたら積極的に吊っているが、それにしても毎度よく捕まる。
周囲を見回し、近場にサバイバーがいないことを確認してから風船を括りつける。暴れるのを無視してそのまま近場のチェアまで歩いていく。いつものように縛り付けようと紐に手を掛けたところで、躊躇った。
振りぬこうとした傘が宙で止まる。怪訝そうな視線を向けられたところで、風船をくいと寄せてから紐を切った。
小さな肢体が肩に乗る。その軽い衝撃ですら痛む肩に息を詰め、目を眇めながらもゆっくりと女を降ろした。背に衝撃を与えぬようにできる限り静かに縛りつける。
不思議そうに見やる医生の視線を無視して、膝についた泥を適当に払ってやる。
「お前、あれはもうやめろ」
「あれ……何をかしら?」
ぱっぱと手に付いた泥を落としながらそう言うと、医生は首を傾げた。
謝必安ほどではないが、謝必安の意思で范無咎も何度か医生と会話をする機会があった。その折に敬語はやめろと指摘したのだ。
以来、相手は今のような言葉遣いで接するようになった。
いつだかそれを知った謝必安が羨ましいようなことを手紙にこぼしていたから、お前も頼めばいいだろう、と返したこともある。無咎のそれは頼んだんじゃなくって脅迫だよ、と相棒の苦笑した顔が浮かんでくるような返事がきたのは記憶に新しい。
それの何が悪いと思ったが、謝必安は医生にそうしたくはないのだろうとも理解していた。
「勝ちたいなら、まず攻撃に当たるな。傷を負えば負ける。戦場(いくさば)の常識だ」
続けて言えば、ようやく思い当たったように医生は顔を上げる。
「もしかして、昨日の?」
「それ以外にもあるのか?」
医生は慌てたようにふるふると首を振った。それから微苦笑を浮かべる。
「あなたもシャビアンさんと同じことを言うのね」
「当たり前だ。例え勝ったとしても後味が悪い」
「それも同じ」
心なしか楽しそうに告げられる。捕まっているというのに呑気なものだ。そう思って、それに応じている俺もどうなんだ、と口をへの字に曲げた。
何だかんだ絆されている。必安のことをとやかく言えんな、と范無咎はため息を吐く。
それを見た医生が、ふと心配そうな表情でこちらを見つめた。
「ねぇ、やっぱりあなたたち、どこか体調が悪い?」
「……何故そんなことを聞く」
范無咎は内心でぎくりとしながら、それを仏頂面で誤魔化して睨むように問い返す。呑気だと思った途端にこうだ。これだから油断できない。
だって、と女は呟いてから一度躊躇い、意を決したように口を開く。
「最近、ゲームの調子が悪そうだし」
「負けと辛勝続きの俺たちへの当てつけか?」
「シャビアンさんにも言ったけど、そういう意味ではないの」
知っている。当の謝必安から聞いた。エミリーが心配している、バレないように気を付けてくれ、と。
「結果のことを言っているんじゃなくて、あなたたちにしては不注意が多いから」
范無咎は眉根を寄せる。謝必安は手紙で言っていた。怪我のことを知られてしまえば、彼女は何が何でも治療しようとするだろうからと。
彼女は今、サバイバー達に密告者だと疑われている。自分達ハンターと接触するのは拙い。せめてほとぼりが冷めるまでは距離を置いた方がいい。
相棒はそう提案し、だから范無咎も謝必安の容態を気にしつつも黙っていたのだが。
「最近、あなたたちから強い香りがすると話題になっているわ。だから居場所がわかりやすいと。普段より香水を強くつける時は、一般的に考えてその香りをつけ慣れていないか、別の匂いを隠したいときでしょう?」
つくづく鋭い。范無咎は額に手を当てて唸りたい衝動を必死にこらえた。
いっそ謝必安に変わるべきか。いや、それこそ負傷を隠していると言っているようなものだ。しかし己は謝必安のように口が上手くない。待てなら八方塞がりじゃないか。
どうすればいい、と閉口したまま動けなくなる。だがその時、突如として目の前に人影が飛び出してきた。
「センセェ────!」
「ちっ……!」
気付くのが遅れた。咄嗟に腰に手を回して鐘を取る。
雨に濡れた柄を取って腕を振り上げ、再び走った肩の痛みに歯を食いしばりながら鐘を鳴らした。喧しい男の動きが一瞬止まり、その隙をついて一撃を食らわせる。
だが二撃目は間に合わなかった。縄を解かれ逃げていく医生を、オフェンスを抜いて追う。
流石に躊躇していられずその細い背に一発当てる。しかし諦めまいという意思が働くのか、医生は膝をつかずに椅子と范無咎から離れようと走り続けた。
だが自分から逃げ切るには速度が足りない。錆びついた寝台やゴミ箱などが雑に遺棄された場所に辿り着いたところで、医生の体力は尽きた。
追いかけてきたオフェンスを牽制し、悔しそうに遠くに離れていったことを確認してから、范無咎はため息を吐いた。
倒れた医生に近付く。先程と変わらなぬ場所でしゃがみこんでいた。
ずれかけた帽子を乗せた頭を見下ろし、少しだけ思案してから身を屈める。片手で収まりそうな細い腹をすくい、紐を巻き付ける。
括られた風船によって浮かびあがった医生の耳に、范無咎は口を寄せた。
「今日の夜、医務室に行く。待っていろ」
そう囁くと、女の肩が跳ねた。それから物言いたげな視線を寄越す。
──悪いな、必安。心の中で片割れに謝る。俺はお前を優先する。
例え約束を破ったことで医生が更に窮地に追いやられても、後々謝必安自身に悲しまれようと怒りを向けられようと、それだけは譲れない。范無咎が何よりも優先したいのは謝必安なのだ。
医生の眼差しを黙殺して歩いていく。ぽつぽつと雨が風船に落ちる音の鬱陶しさに空を睨んだ、その刹那。
「おらぁぁ────?」
雨の音すら掻き消すような大声が耳をつんざいたかと思うと、腹に衝撃を受けた。しまった、と思ったときには身体が後ろに傾いでいた。
たたらを踏んで耐えようとした足は、しかし不運にも何か障害物に引っかかる。范無咎は体勢を崩し、大きな水たまりの中へと背中から思い切り突っ込んだ。
「──、づぅ……っ!」
脳天を突き抜けるような強い痛みに呼吸を止める。あまりの痛さに耐え切れず、食いしばった歯の隙間から声が漏れた。
「大丈夫か、先生?」
「あ、ありがとう、助かったわ」
「おう!んじゃ逃げてくれな。黒無常、今度はオレが相手だ!」
神経を逆なでする声がぐらつく頭にかろうじて届く。耳元で水たまりに落ちる雨音が煩さも相まって、范無咎は強く傘を握りしめた。
人が不調な時に限って、どれもこれも。
口に入った泥水を吐き捨てて無理やり立ち上がる。苛立ちは頂点に達していた。
「上等だ!返り討ちにしてやるっ!」
こいつを飛ばさなければ気が済まない。そうしてまんまと挑発に乗り、范無咎は逃げていくオフェンスを追いはじめた。
◆ ◆ ◆
「あら?」
美智子は目をしばたかせた。廊下からふらふらと歩いてくる人影に、手に持っていた湯呑を置いて立ち上がる。
「黒無常はん。雨ん中おつかれやす」
「ああ……」
手短な応答。せかせかと館を動き回る使用人から大判のタオルを受け取りながら、黒無常は美智子の横を通り過ぎる。
「あんさん、大丈夫?えらい顔色悪いで」
「寝れば治る」
引き留めるも、そう答えてさっさとエントランスの向こうへ行ってしまった。
相変わらずとっつきにくいお人や、と美智子は小さく肩を竦ませる。無口で不愛想。自分は被害に遭ったことはないが喧嘩っ早い。
まったく白無常とは対照的だ。だからこそ馬があうのかもしれないが。
「あら、美智子じゃない」
ふと、二階から声がかかった。見上げれば、ヴィオレッタが八足のうちの四足を手すりに掛けてこちらを覗いていた。
「こんにちは、ヴィオレッタはん。もしかして次のハンターはあんさん?」
「ええ。まったく、雨なのに嫌になっちゃうわね。身体が錆びついちゃうわ」
「ほんにねぇ。終わったら身体拭くの手伝うわ。ほんで一緒にお茶でもしましょ」
「ありがとう。ふふ、美智子とのお茶会は楽しみだわ」
エントランスに降りてきたヴィオレッタは嬉しそうに笑う。じゃあ早く終わらせなくちゃ、と手のひらを握る彼女に、美智子も和やかに微笑む。
カシャカシャと機械仕掛けの足を動かして控室に向かっていくヴィオレッタを見送ってから、美智子はくるりと首を巡らせた。
待機室に向かうドアの反対側。先ほど黒無常が去っていた扉には既に何の気配もない。
「……ほんまに、大丈夫やろか?」
閉じた扇子を手のひらで受け止め、美智子は眉を潜めて首を傾げた。
◆ ◆ ◆
自室に戻った范無咎は、後ろ手に扉を閉めて深いため息を吐いた。気を抜いた瞬間、意図的に忘れていた重さや痛みが一気にやってきてたまらず呻き声をもらす。
止めた息を細く吐いて、ほつれた髪を無造作に解く。重さの増した衣服を脱ぎ捨てていくと、予想以上に水を含んでいたらしく、落とした途端に床どころか絨毯にまで水が滲んだ。
それを横目で見ながらもそのままにする。使用人に頼めば適当に処理してくれる。それよりも今はとにかく眠りたかった。
布で身体を拭ってから寝間着に着替え、そのまま寝具に倒れ込んだ。
「いっつ……、さっきのゲームでまた悪化したな……」
痛みに顔をしかめながら、寝台の横に立てかけておいた黒傘を布団の上に持っていく。起き上がる気力もなく、寝転がったままずるずると横に移動して傘を引っ張る。
布団の上に乗せ、ようやく落ち着いたところで范無咎は長く息を吐いた。瞑目してゆっくりと深呼吸を繰り返す。
少しだけ痛みがマシになったところで薄く目を開けた。緩慢な動作で手を伸ばし、傘を労わるように手を置く。
必安。掠れた声で名を呼ぶ。魂魄のみの状態でも不調は反映されるのだろうか。横に置いた傘は、しんと静まり返っていた。
幼少の頃、丈夫であった自分と違ってよく熱を出しては寝込んでいた友を思い出し、瞳を歪ませた。わかっているだろ、と悔しげに言葉をこぼす。
互いに、どんなに望んでも、どんなに願っても。
「必安。俺はもう、お前を看病してやることが、できないんだからな……」
だから、医生に治してもらいに行くぞ。そう呟いたのを最後に、范無咎は深い眠りについた。
コンコン、と部屋に響いたノック音で意識が浮上する。
范無咎はがばりと起き上がり、しかし吐き気を催すほどの酷い眩暈に襲われて再び寝台に沈んだ。天井がぼやける。全身が鉛のように重い。確実に寝る前よりも悪くなっている。
「今、何時だ……?」
この屋敷の時計は尽く壊れている。懐中時計を取りに行くのも面倒で窓を見れば、カーテンの隙間から赤い光が見えた。
黄昏時か。ならば使用人が夕食の呼び出しに来たのだろうか。
ひりつく喉を片手で押さえながら、范無咎はずんぐりとした小さな使用人を思い浮かべて声を出す。どうにも食欲が湧いてこない。
「俺たちの夕飯はいらん。……いや、待て、一食は持ってきてくれ」
「その声は……ファンウジン?」
「あ……?」
この女の声は。高すぎず、落ち着いて聞き取りやすい声音に、范無咎は重い身体を引きずるようにしてドアに向かう。
ドアノブを回せば、部屋の前には気弱そうな顔をした女が現れた。女は赤い箱を抱えたまま、目を見開いて立ち尽くしている。
どう考えてもここにいるはずのない人物に、お前、と呟いて、けれど安堵に肩の力を抜いた。
驚きに息を呑んだ風だった医生は、我に返ると珍しく眦を吊り上げてこちらを睨み上げてきた。
「ちょっとあなた、その状態でどこに行くつもり?」
「ああ……ちょうどよかった」
咎めるような口調で尋ねてくる医生に、范無咎は無意識に手に取っていた黒傘を開く。待ちなさい、と的外れな言葉と自分相手に強気な態度が何故だか無性に愉快に思えて、自然と口元が緩んだ。
「逃げるわけじゃない。代わるだけだ」
──必安、こいつは俺たちが思っている以上に馬鹿だぞ。
呆れ返るほどに馬鹿で愚直だ。加えて頑固なのだから救いようがない。──だが、助かった。
ばたばたと落ちていく黒い雫の隙間から、訳が分からずに立ち往生している医生が見える。その間抜けな姿を引き寄せ、部屋に招き入れてから手を離した。
「──必安を、頼む」
祈りにも似た言葉を医生に差し出して、范無咎は傘に溶けた。