おおかみと赤ずきん 影





―――「出会い」は終わりに、続くシナリオ


くあ、と大きく口を開けて狼は欠伸を一つする。それにつられるかのように目の前の兎が小さな口を目一杯開けてぐ、と身体を伸ばし、辺りをキョロキョロと見回したところで跳ねるように森の奥へと走り去っていった。それを呆れ眼で見つめながら、メイトは耳をぴくりと動かした。彼の口元に、小さな笑みが浮かぶ。
週おきにやってきては時折パンを籠に入れて帰り際に置いていき、次回は開口一番に感想を聞いてきてそれに答える。それが二人の習慣となり、日常の一部として溶け込んでから二回程季節が巡った。そして今、森は芽吹きの季節を迎えていた。
「こんにちは、メイト」
―――ああ
とはいえ、まだまだ春に差し掛かったばかりの風は冷たく、息を吐くと白い蒸気が立ち上っては溶けるように空気中へと消える。メイコの靴も未だ冬に愛用しているものだ。土を踏む音が革靴のそれよりも柔らかい。
いつものように巨樹の前で足音が止み、さして間を置かずばさ、と布を広げる音がした。気温が低いと地に落ちた朝露は昼を過ぎても蒸発せずに残るため、土が湿っているのだ。服が濡れてしまうのが嫌だからと以前メイコから聞いた。そういうもんなのかと首を傾げたが、雨に濡れると体温を奪われないように舐めて乾かしたり勢いよく身震いして水を飛ばすのと同じだ、人間はそれができないから、汚れたくないのは人それぞれとして極力服を濡らしたくないのだと言われ、なるほどと納得した。ちなみにそうなったときは洗剤というもので汚れを落として日光に当てて乾かすのだそうだ。
「さっきね、道端にフキノトウが生えてたの」
フキノトウとは、雪解けとともに顔を出す小さな蕾を沢山付けた春の野草だ。成長すると薄い黄色の花を咲かせて丁度春一番を出迎えてくれるのだが、花が開くか否かのところで大抵はいつの間にか摘み取られてしまう。特に街道付近のものは毎年数個を残して全部消え去る。動物達ではない。人間が食料として収穫するのだ。
「まだ冬だーって思ってたけど、そういうの見つけると春なんだなぁって。ちょっと実感湧いた」
そろそろ花も咲くかなぁと声を弾ませるメイコに、そうだな、と口の端をひょいと上げて頷いた。笑っているだろうことは、顔を見なくてもわかった。
出会った時から、メイコはこの森が――正確には森にある自然が――好きだった。眠気を誘い心が凪ぐほどなだらかに、ときには反射的に目を瞑ってしまうほど激しく、気候によって変幻自在にすり抜けていく風。それに応じてざわざわと枝をゆらし葉を散らす木々。淡水を好む魚が暮らす透き通った清水が流れる川。木の実や草を食み冬はそれぞれの巣穴で越冬する動物達。それを見る度感じる度、メイコは楽しそうに目を細めて狼に話しかけてきた。木を見上げたら枝に綺麗な鳥が止まっていた。川をじっと覗いていたら魚がぱしゃんと跳ねた。森を散策していたら穴があって、そこからうさぎがひょっこり顔を出した。彼からすれば至極当たり前でよくある光景を、まるで滅多にお目にかかれない一場面に遭遇したかのように語るのだ。
けれど、メイトはそれを聞くのが楽しかった。
「そういえば、昨日の朝向こうの街からこっちに花屋さんが来てね―――」

―――『メイト!すっごい綺麗な花があったの!』
特に四季によって様々な顔を見せる花々は、彼女の一番のお気に入りだった。道端(と言っても彼女が年単位で踏みならして作った道であるが)に咲いていた花を摘んできては、たまに花屋からわざわざ買ったものを持ってきては「見てね」と言わんばかりに置いていった。明らかに自分を狼として見ていない彼女の対応に呆れたらいいのか喜んだらいいのか複雑な心境になりながらも、選んだ花はどれも綺麗で可愛らしく自然と顔が綻んだ。メイトもお返しに花を、と試みたが、残念ながら彼のぞろりと生えそろった鋭い牙のある口では綺麗に花を摘むことができずそしてそんなことを思い立つ自分が柄ではない気がして、思い立ったその日にさっさと諦めた。その代わりといっては難だが、人間でも食べられる木の実や果実を大きな葉に包んで彼女が座る幹の前に置いておいたら、予想以上に喜んでくれた。そのことが思いの外嬉しかったらしい自分に気付いて、それが何故か無性に気恥ずかしくて、その時メイトは無言で鼻を鳴らして尻尾をパタンと一振り以外何も反応しなかった。それでもメイコは気にした様子はなく、嬉しそうに笑っていた。それからも度々メイコは花を持ってくることを止めようとはせず、自分もこれきりにしてしまうのはもったいなくて―――以来、今でもこの花と木の実の贈り合いは続いている。
変化があったとすれば、その贈り合いに手作りのパンが追加されたことか。
「――それと、私と同じくらいの男の子がもう大人と一緒に働いてたの。すごいなぁって思っちゃった」
―――…?お前も働いてんじゃないのか?
私も見習わないと!と息巻く彼女に、メイトは訝しげな顔をして幹向こうを見遣る。朝早くから生地を捏ね、窯を焚き、焼きたてのパンを店に並べているのだと以前少女自身から聞いた。今はそれに加えて新作の制作を任されている。人間社会などほぼ遠目から見たことと彼女から聞いたことだけでよくわかっていないが、その僅かな知識だけでも働く働かないの基準で言えばメイコの行ってることは”働いている”に充分属するのではないだろうか。
「ううん、私のはお手伝いの範疇だもん。好きにやらせてもらってるけど、必ず誰かについていてもらわないといけないし、失敗してもそれに対して私には何の責任も負わないから」
それってまだまだ半人前、てことなのよねぇ。はぁぁ、と長い溜め息とともにそう吐き出した。つまり働いているというのは一人前になったということで、メイコは半人前だから嘆いている、ということなのだろうか。
よくわからん。こういったことを考えるのは苦手だ。
遠くから見てただけなんだけど。それを口切りに、メイコは花屋の子供について話しだす。
「その子ね、自分一人で家を回って花を売ってたの。大きな籠いっぱいに色とりどりの花をつんで、素敵な花はいかがですか?て。大人は荷車の前で座りながらのんびりと常連さんとおしゃべりしてるの。それって、その子がそれだけ信頼されているってことじゃない?それが羨ましくて、悔しいなーって。そう思っただけ」
そう呟き、えへへ、と何かを誤魔化すように笑った。メイトは少しばかり逡巡し、結局はいつものようにそうかと相槌を打つだけに終わった。我ながら情けないと思わないでもないが、きっと彼女は慰めや励ましを求めている訳ではない筈だ。ただ本当に、つい話してしまっただけなのだろうから。狼の返しを感じ取ったメイコはそれと、と再び口を開く。
「その子は綺麗な青色の髪でとっても羨ましかったです!以上愚痴終了!」
突然声を張り上げてそう宣言した少女に、メイトは淡い笑みを浮かべ彼女に聞こえない程度に小さく息を吐いた。声音から察するに吐き出してすっきりとしたようだ。最後の付け足した台詞は弱音のようなものを言ったことに対するちょっとした照れ隠しだろう。
「…今笑ってるでしょ」
―――…いんや
「嘘!絶対笑ってる!」
―――見えてねぇくせに
「見えなくてもわかるわよそれくらい!ていうかいい加減顔見せてくれてもいいんじゃないの?慣れたけど」
―――ならいいじゃねぇか
「別にいいけどよくもないわよっ」
―――訳がわからん。何でそんなに見たがるんだよ
「そ、れはっ……」
傍から見れば少女が一人で喚いているようにしか見えない応酬が、突如止まる。強張った気配を感じるに、狼狽しているのだろうか。
―――…?
はて、そんなに困るようなことを言ってはいない筈だが。メイトは自分の発言(正確には違うがそういうことにしておく)を振り返るが、確か以前にも同じように飛ばした会話のやりとりの筈だ。その時はメイコも即座に何事かを返してきた。随分と前のことだから何と返してきたかは思い出せないが。
口ごもってしまったメイコをどうしたと促してみるが、え、と…その…と意味のなしていない言葉のような音が彼女の口から零れるだけで、狼はさらに首を横に傾けた。メイコの表情が読めない。
―――どうした?
「……そりゃ、メイトの顔見て話したいし………会って話したいことも、あるから…」
―――このままじゃダメなのか?
「ダメ!…その、ちゃんとメイトの顔見て、言いたい、の……」
―――?…そうか…
彼女にしては珍しくたどたどしい口調で返された答えを聞いても、やはりどんな顔をしているのかわからなかった。ただ、その声音がやけに真剣味を帯びていて、冗談で言っているのではないことはわかった。
「………かん……」
―――誰が鈍感だ
「何で聞こえたの?!」
―――俺の耳の良さナメんな。お前よりかは俊敏だぞ
「……そういう意味じゃないから」
―――あ?なら何だってんだ?
「ほら!そういうところが鈍感なの!違うって言うなら自力で気付いて見せなさいよ!」
ふんっ、とそっぽを向いたらしいメイコに、メイトは眉間にしわを寄せて怪訝な顔で疑問符をまき散らすばかりだった。一体どういうことなのだろうか。メイトは数秒本気で頭を回転させ―――すぐに諦めた。とりあえず後でゆっくりと考えよう。時間か余裕か暇があったら。ちなみにそれらはメイト基準で判別するためいつやってくるかは不明だ。それはともかくとして、彼女の機嫌を損ねてしまったらしいことは確かだ。
メイコはそこら辺で拾った枝で地面に何かをかきながら、バカだの朴念仁だのと小さく呟いている。……聞こえていないと思っているのか聞こえているとわかっていながら敢えて呟いているのか判断につきかねるものだ。「…で、会ってくれるの、くれないの?」
ひとしきり文句を言って多少はすっきりしたのか、不機嫌な口調ながらもさっきの話題の返答を催促してきた。メイトはやれやれと小さく息をつき、顔を僅かにメイコの方に向ける。
―――ま、いつかな
「…え?」
―――いつかは会って話そうぜってことだよ
「ホントっ!?いつ、ねぇいつ?!」
―――いつかって言ってんだろ?
「だからいつかっていつなのよもう…。でも、約束だからね!」
―――…ああ
絶対よ!としつこく念を押してくる少女に苦笑いしながらも首肯する。つい先程まで損ねていた機嫌が一瞬にして直ったようだ。成長していても、こういう所は出会った時から変わっていない。まぁ一瞬で落ち着き払った淑女のようになられてもそれはそれで困惑するが、それでも懐かしさを感じさせる仕草があることが少しだけ嬉しかった。 ふいに風がさぁぁと通り抜けた。メイトの鳶色の剛毛をさらりとなびかせて去っていく。意識して呼吸すれば肺にひんやりとした空気が入ってきた。メイコは肌寒くないだろうかとふと思ったが、最早彼女のトレードマークと化した赤い頭巾が冷たい風を防いでくれているようで寒いと呟くことはなかった。


―――……?
ふと、メイトは瞬きをした。風に紛れて何か妙なにおいが鼻についた。どこかで嗅いだ事のあったが、しかし微かすぎて判別できない。何だったかと首を傾げていると、それに気付いたメイコがどうしたの、と声を掛けてきた。
―――いや、何か変なにおいが…
「においがするの?」
その問いに狼はこくりと頷く。
「メイトが首を傾げるってことは、森にはない香りなのよね。今日は何にも持ってきてないけど……」
うーん、とメイコは頭をひねりながら思案する。風の方向からして、彼女の方からやっていたものだと思ったのだが…気のせいだったのか。無意識に記憶から掘り出され嗅覚により再生された錯覚か。もしくは森の外から運ばれてきたのかもしれない。
そう考えていたら、あっとメイコから何か思いついたような声が上がった。
「もしかしたらこれかも」
そうして木の横からひょいと出てきたのは、しなやかであるが不安になる程のか細さを感じさせない腕ときめ細やかな紅色の布で作られた小さな袋。白い繊手に絡まった細長い紐が揺れると、連動して袋もふらふらと動いた。
さぁ、と風が吹いて、彼女の手にぶら下がったそれがひと際大きく揺れた。
「お守り袋っていうんだけどね。前にも何回か話した、私の2つ上の幼馴染みがついこの間狩人になって、そのお祝いというか記念というか…そんな感じに言われて、もらったの」
どうしてか私が、とおかしそうにメイコはくすくすと笑った。小刻みに跳ねる肩の振動が腕を伝い、お守り袋をふらふらと揺らす。それをメイトは、じっと凝視して固まっていた。唯一見開いた褐色の瞳だけが、静まりかえった水面をつついたように震えていた。
「そうそうそれでね。花屋の子の話に戻るんだけど、……?メイト、どうしたの?」
―――…………いや、
掛けられた声にはっと我に返り、メイトは目と閉じ一呼吸置いてから短く、平静を装ってそう一言だけ返した。怪訝そうにこちらを見る視線が伝わってくる。
―――それよりもう帰る時間じゃないか?
「え、うん…確かにそうだけど……」
再度問いかけてくるのを避けるように、メイトは彼女が話すよりも先に言葉を重ねた。嘘はついていない。もう日が暮れ始める時刻だ。だから、早く。
―――なら早く帰れ。親が心配するだろ?
「う、ん…?えと、それじゃあ…また……」
歯切れの悪い言葉を口にしながら、メイコはゆっくりと立ち上がる。突然自身の纏う空気が変わったことを、彼女は気付いているのだろう。何せ声を発せずとも狼の思考を読み取ることができるという才を持っているのだ。しかし、ばれていようがいるまいが、今の彼には彼女の追及をかわすことも受け答えることもできそうになかった。普段であったなら一抹の寂しさと名残惜しさを感じる別れは、情けない程にただただ去ってくれと願う思いで埋め尽くされていた。ちらちらをこちらに視線を向けながら森を抜けていく少女に、見えていないだろうが尻尾だけひょんひょんと振りながら見送る。完全に視界から、耳から彼女の存在が消えた後、狼は振っていた尻尾を冷たい地面に落とした。
「……………」
未だ草花が生えてきていない土をじっと見つめる。褐色の瞳は先程よりもずっと、まるで限界まで張りつめた薄い膜のように、酷く不安定に揺れ動いていた。
「…………」
メイトはすく、と立ち上がって草の生えた地面を踏み歩く。ぽて、ぽて、と、まるで彷徨うかのようにおぼつかない足取りで。 ぽて、ぽて。ゆっくりと地を踏むその四肢が、徐々に速度を上げていく。
「………、」
ぐ、と奥歯を噛んだメイトは、やがて完全に駆けだした。
「……――、」
狼は駆ける。狭くもなく広くもない、端から端まで知り尽くした森を、全速力で。あたたかな性情をもつ平穏なこの場所に似つかわしくない、内で荒れ狂う感情に苛まれながら疾走する。彼に気付いた獣たちは驚いた様子で道を開け、隠れ、逃げ出していく。ア
「―――っ!」
ばき、と乾いた音が足元で響き、次いで前脚に刺すような痛みを感じた。痛みの原因であろう細かな木の欠片が視界を掠めるが、それにかまうことなく走り続けた。
無造作に立ち並ぶ木々が突如として無くなり、狼ははっと立ち止まった。重心を後ろにずらして勢いを殺したが、それでも不意であったため数歩ばかりたたらを踏んだ。じくん、と鈍い痛みを伝える前脚から地面へ、血が滲む。
「…っ、……、………」
ひゅうひゅうと、喉が鳴っている。久方振りに本気で駆けまわったからか、それとも別の理由か。それを考えられるほど、今のメイトの心に余裕というものがなかった。

においの源は、確かにあのお守り袋とやらからだった。気のせいではなかった。俺の鼻も中々のものだなと少しだけ図に乗ったが、一息呼吸をした頃には足元を崩されて堕ちていった。
「……、……あれは…」
あのお守り袋とやらに入っているのは、火薬だ。メイトが何度も、何度も、嫌でも嗅いできた、自分達獣の身体を貫く凶器だ。しかも、メイコには――人間にはわからない程度ににおいを抑えた、嗅覚の鋭い動物にしか、自分にしかわからないように細工をして彼女に渡したのだ。
その意味と意図を理解できないわけがない。あれは、メイトに対する警告だ。彼女に近付くな、触れるな、わきまえろ。それ以外に捉えようのないくらい単純で明確で、そして純粋な敵意だ。いや、寧ろ殺意に近いのかもしれない。

―――…化物め。

「――――、」
夢の中の光景が、声が頭をよぎる。

何故自分の存在が知れた?メイコが?いや、彼女が例え幼馴染だとしても狩人を目指す少年に安易に教えるとは思えない。彼女は賢い子だ。自分に関する発言がどういった事態に繋がるかわかっている筈だ。それにもし幼馴染に言ったのだとしたら、あのお守り袋の中身と意図に気付いていない訳がない。
「……なら、」
答えは一つ。その幼馴染とやらが自力で自分の存在に気付いたということだ。
――ズキン。前脚に鈍痛が走る。
そもそも今までの彼であれば有り得ない程長い間ここに住み着いていたのだから、いくら人目を避けようとずっと見付からずに過ごすのは無理があったのだ。寧ろ何故今までそれを忘れていた?気付かなかった?
「…………いや、」
そう考えてから、メイトは苦々しげに首を横に振る。違う。時折思い出してはいた。ふとした瞬間に脳裏によぎってはいた。ただそれを、まぁいいかと流していたのだ。
そうなったら去ってしまえばいい。きっとまだ先のことだ。気付かれても何とかなるだろう。
始めは本気で森から離れるつもりだった。それからメイコと何度も会い、何度も話して、考えることを先延ばしにした。そうしていつの間にか彼女のような人間がごく普通の存在なのだと、無意識の内に心の奥底で勝手に思い込んでいたのだ。だが―――、
「は…馬鹿だ、俺…」
変わってなかった。変わってなど、いなかった。
変わっていたのは自分と彼女だ。はじめから、出会った時から。
わかっていたことだ。当たり前のことだ。変わりようのない事実だ。それなのに、何故こんなにも、痛い。
自分と彼女の関係が異質だった。それを、改めて実感しただけだ。それだけだ。
「…………んのに、」
何故、ナゼ?メイトの胸に湧き出た疑問は、しかし浮かぶだけ浮かんで頭の中を悪戯に埋め尽くし、答えなどてんで返ってこない。
ざり、と前脚が砂を掻く。既に日が沈んだ世界で、土と混じる血の色は黒にしか見えない。
ふいに、狼は俯けていた頭を上げて横に向ける。その先には、メイコの住んでいる町がある。彼女の親が、友人が、親戚が、小さいとはいえ沢山の人が暮らしているのだ。そしてあのお守りを彼女に渡した幼馴染も。
闇に包まれた世界がますで陽炎のように脳裏にちらつく。そうだ、彼らも……”人間”だった――――。
震えるほど力の入った前脚に、己の額を押しつける。
最初から気付いていた筈だった。ずっと覚えていた筈だった。
「…っ…いってぇ……」
苦しそうにうずくまった獣が、堪え切れず声を漏らす。その痛みが何処から響いてくるのか、最早メイトにはわからない。
不明瞭なまま荒れ狂う激情は、ひどい暴力でしかなかった。







あとがき
ボカロでのメイトはメイコを元にして生まれた存在で、だから性格も似ているように意識して書いていた気がします。かつ男女の差も感じられるように。
余談ですがめーちゃんの幼馴染みはタイトっていう設定です。


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