遠い鼓の音に耳を澄ませ
エウリュディケ荘園に、夏祭りがやってきた。
どん、ちん、どんどん。懐かしい音色が遠くから聞こえる。太鼓に鉦吾しょうご、それから銅拍子。一定のリズムで、時には緩急をつけながら紡がれる演奏は、一体誰が鳴らしているのだろう。
「……はい、完成。もうええよ」
きゅっと帯を締めて声をかけると、横に結い上げた癖毛を揺らして彼女はこちらに顔を向けた。
「ありがとう、美智子。浴衣って、随分と難しい着方をするのね。合わせ方とか、帯の締め方とか」
「覚えれば簡単やで。マーサはんは呑み込みが早いから、すぐにできると思うんよ」
「んー、でも動きづらそうだしなぁ」
「あらあら」
男勝りな彼女らしい発言だ。美智子は思わずくすりと笑い、それから濃い橙色の帯をぽんと叩いた。
「いってらっしゃい。ナワーブはんらと遊んでくるんでっしゃろ?」
「ええ、射的ってやつで勝負するの。良い景品が取れたら美智子にもあげる」
「ふふ、そら楽しみにしてるわ」
じゃあまたあとで。マーサはそう言って、夜空に咲く花火を翻して部屋を出ていった。先ほどまでぱたばたと浮足立つ女性達で騒がしかった部屋は、すっかり静かになってしまった。
先程よりも太鼓の音がよく聞こえる。この乱暴なほどの力強さは、もしかしたら道化師のジョーカーかもしれない。お祭り騒ぎが大好きな彼は、我先にとばかりに荘園を飛び出していったのだ。
荘園主の気まぐれにより開催された夏祭りは、どうにも美智子の遠い記憶をくすぐった。祭りの開催場所といい、今日届いた大量の浴衣といい、まるで日本の縁日や盆踊りのようだ。
この荘園同様、ここに集まった者達のほとんどは外つ国の者だ。そして浴衣は彼女の故郷の衣である。着方がわかるはずもない。
結果、美智子は女性陣の着付けを一手に担い、夕方からは着付けては送り出し、着付けては送り出しを繰り返していたのだ。
端によけた椅子に座り、美智子はテーブルに置かれた湯呑に口を付ける。すっかり冷めてしまった緑茶は、暑さも相まって今は心地よく喉を通り過ぎていった。
「それにしても……荘園の主様は、やはり変わり者ではりますなぁ」
ここ西洋で、わざわざ日本の文化に則った祭りを開催するとは。これを変わり者と言わずに何と言おう。しかも、会場も東洋の街並みを模した庭だ。入り口や町の看板などにも、わざわざ美智子の母国語で『永眠町』と記されているほどの作り込み具合ときた。
どん、とひときわ大きな音が響いた。次いでぱらぱらぱら……と小豆が升の中で転がるような音が余韻を残す。思わず窓を見れば、永眠町の上で光の花が散っていくところだった。
「驚いた、花火まで用意してはるんか」
美智子は黒い瞳をぱちぱちとしばたかせる。一体どこで入手してきたのか。ハスターのような存在がいる時点で今更だが、一向に姿を現さない荘園主に対してますます謎が深まるばかりだ。
どん、とまた花火が打ち上がる。星にも負けない色鮮やかな花が夜空に咲いて、そして散っていく。腹に響くような音と、そのきらめきが遠くの故郷を思い出させて、美智子は思わず目を細めた。
ふいにコンコン、とドアをノックする音が耳に届いた。美智子さん、と落ち着いた女性の声に呼ばれ、振り返る。どうぞ、と声をかけると、ドアノブが回って扉が開いた。
「こんばんは。あの……着付けはまだやってもらえるかしら?」
ひょこりと顔を覗かせた女性は申し訳なさそうに尋ねる。いつも身に着けている白い帽子とケープを外した彼女に、美智子はにっこりと微笑んだ。
「ええよ。こっちおいで、先生」
ちょいちょいと手招きをすると、先生──エミリーはほっとした表情を浮かべてドアを閉めた。
「ごめんなさい、浴衣を選ぶのに手間取ってしまって……」
「ああ。ぎょうさんあったもんなぁ。ええもんは見つかった?」
「ええ、まぁ……」
問いかけると、彼女は困り眉を更に下げて曖昧に頷いた。その割には浮かない顔をしているような。美智子は首を傾げ、彼女の抱える浴衣に目を向けた。
細い腕から覗く生地は、白地に青い瓢箪ひょうたんが描かれている。帯は瓢箪よりもさらに深い青に、流れ星のような白い線が細く入っていた。
「綺麗な色やね。きっと先生に似合うよ」
言うと、エミリーは顔を上げ、それから照れくさそうにありがとう、と淡く微笑んだ。その笑顔を見て、もしかしたらそれが不安だったのかもしれないと美智子は思う。
「さ、服脱いで、まずは肌着どす」
エミリーは頷き、浴衣を椅子に背もたれにかけてナース服(というらしい。医者の助手が着る衣なのだそうだ)を脱いで肌着を羽織った。美智子は彼女の前で跪いて前を合わせて紐を結び、それから白と青の浴衣を着せる。
ぴしりと姿勢よく静止し両手を広げて袖口を持つ彼女が、美智子の手を興味深く眺めているのを感じる。腰紐を結び、その紐を生地で隠すためにおはしょりを整えたところで、視線に堪えきれず笑声をこぼした。
「ふふ……」
「どうしたの?」
「いや……サバイバーの子らはみーんな小さいやろ?何だかお子の着付けを手伝っているみたいで、えらい微笑ましゅうて」
首をこてんと傾げるエミリーにそう答えると、彼女は困ったような笑みを浮かべた。
「エマやトレイシーはともかく、私はそんな年ではないわ」
「わかっとるよ、先生。でも、みんなお行儀よくじぃっとして、されるがままなんやもの」
美智子に比べて半分ほどの背丈しかない彼女らが、浴衣を持って着させて、と自分のところに集まってきて、そわそわと期待に満ちた眼差しで着させられるのを待っているのだ。どうしてもかわいい、という単語が頭に浮かんでしまう。
思ったことをそのまま口にすると、エミリーは苦笑したまま確かにそうね、と肯定した。
「あなたの国の服に関しては、私も赤ん坊だわ。着方さえわからないもの。どの柄もとても綺麗だから、自分でも着てみたいものだけれど」
「嬉しいこと言うてくれはりますなぁ。そんなら、先生に着付け方おせるわ。皆はんほんに可愛らしいから、また着てもらいたいしなぁ」
「ふふ、ありがとう。だったら興味ある人を集めて、美智子さんにレクチャーしてもらおうかしら」
「ええね。いつでもかまへんよ。ゲーム以外でなら」
「ええ、ゲーム以外でね」
そんな静かな談笑を繰り広げながらも、美智子は浴衣を着付けていく。衣紋えもんを少し抜き、更に着崩れ防止のベルトを腰に巻いてから帯を締める。これで完成だ。
もうええよ、と声をかける前に、再びノック音が室内に響いた。美智子とエミリーは顔を見合わせ、それからドアの向こうの誰かを招き入れる。
「美智子さん、こちらに……ああ、よかった。ここにいたんですね」
ドアの上の方から白黒の顔を覗かせ、長身の男は柔らかな微笑みを浮かべる。白黒無常はそのまま扉を閉めて中に入ってきた。今の彼は白無常、謝必安しゃびあんの方だ。
白と黒の入り混じった三つ編みを垂らす彼も、今宵はいつもの服装ではなく灰から緑へと深くなる生地に明滅する蛍のような柄の入った浴衣と、袖丈だけが紅に染まった群青の羽織を着ている。
ちなみに男性陣の浴衣を着付けたのは他ならぬこのハンターである。白無常と黒無常、果たしてどちらが着付けたのかは定かではないが。
美智子ははて、と片頬に手を当てた。
「白無常はん、確かフィオナはん方と先に行ってはったんやなかったっけ?」
「ええ。ですがなかなか彼女が会場に来ないので、迎えにきました」
半身が宿る黒傘をつき、片手を掲げる。そこには、まるで小さな提灯のような可愛らしい青い巾着が揺れていた。それを見たエミリーが一瞬目を見開き、それから白無常を見上げてちょっと、と不満の声を上げる。
「勝手に人の部屋に入らないでちょうだい」
「時間短縮です。ここからまた部屋に戻っていたら、時間がかかってしまうだろうと思って」
「せめて私の許可を取ってからにして」
「あなたがどこにいるかわかりませんでしたから」
暖簾に腕押し。美智子の頭の中にそんなことわざが浮かぶ。
にこにこと朗らかに笑う白無常に、エミリーは色々と諦めたようなため息をこぼす。けれどその横顔には呆れこそあれど、怒りや拒絶は感じられない。
気安いやり取り。美智子はなるほどなぁと彼女らを見比べた。
二人(というより三人)は一緒に祭りを回る約束をしていたのか。もしかしたら浴衣を着る前の浮かない顔は、彼女が選んだのではなく無常が勧めたものだったからなのかもしれない。異性に渡された衣に袖を通すのは、誰だって大なり小なり緊張するものだ。
そしていつまで経ってもやってこないエミリーに、しびれを切らして戻ってきたと。美智子は思わず、かわいらしいなぁと内心でくすくすと笑う。
同時に、胸の奥がちくりと傷んだ。
(うちにも、そないなことがあったなぁ)
──ミチコ。
まだ言葉に慣れていないのがわかる滑舌で、優しい声音が耳元で響く。異国の彼が浴衣を着ると、ただでさえ注目を集めた。そこらの店よりも多くの視線が美智子たちに降り注いで、けれど見上げれば提灯に照らされた、嬉しそうな彼の笑顔が返ってきて。
気恥ずかしかったけれど、心の底からそれ以上に溢れるのは幸福で。
だから、その手を離すことなど、できはしなかった。
「ほら、無咎も早く祭りを回りたくてうずうずしているんです」
ふと、白無常の発言に美智子は現実に引き戻された。誰が?と思わず黒傘に目線を下げる。彼の大きな手が握る札付きの傘が、その言葉通りガタガタと震えていた。
白無常の片割れが宿っている、その黒い傘が。
ね?と微笑む男をよそに、自分と同じように傘を凝視していたエミリーともう一度顔を見合わせる。
「黒無常はんがはしゃいでるとこ、あんさん見たことある……?」
「いいえ……笑っているところすら数えるほどだわ」
強面、無口、不愛想。近寄りがたい三拍子が揃った黒無常──范無咎ふぁんうじんを思い浮かべて、二人は揃って首を傾げる。あの黒無常が、いつも怒っているような顔をした彼が、祭りに行きたくてうずうずしている、と。
普段の彼と、今の白無常の発言とであまりにも差が激しすぎる。
彼女らの囁きが聞こえたのだろう。彼は失礼ですね、と肩を竦めた。
「無咎は祭りが大好きなんです。彼も好きなものの前では、人並みにはしゃぎますよ」
「それは、そうかもしれないけど……」
「いつもの黒無常はんを見てるとなぁ」
果たして彼を人と称していいのだろうか。そんな疑問は置いておいて、うーん、と二人して眉を寄せる。一方の白は、何故そこまで悩むのかわからない、とでも言うようにきょとんと目をしばたかせていた。
「そんなに想像しづらいですか?」
心から不思議そうに尋ねられ、美智子とエミリーは苦笑いを浮かべる。
「あなたが言うのなら、そうなのでしょうけれど」
「百聞は一見に如かず、というわけや」
「ああ、”百聞不如一見”。そうですね。というわけで行きましょう」
にっこりと微笑み、白無常はエミリーに巾着を差し出す。すいと伸びた細長い手から、彼女は僅かに躊躇いながらもそれを受け取り、白無常は彼女の小さな手を取った。
「それでは美智子さん、先に行ってまいります」
「美智子さん、ありがとう。また後で」
「ええ、いってらっしゃい」
白無常が傘を広げる。途端、白い水が彼とエミリーを包み込んでいく。彼女は慣れていないのか、怯えるようにぎゅっと目を瞑っていた。白無常が安心させるようにその華奢な肩に手を回す様が見えたと思った次の瞬間には、彼らは白い水に溶けて消えた。
くるくると回って飛び去って行く傘を見送りながら、ひょんな拍子に翻った白無常の羽織の裏地が瓢箪柄であることを去る直前で気付いた美智子は、抜け目ないわぁと苦笑いを浮かべた。
「また後で、なぁ……」
ひらひらと振っていた手を下げて、美智子は窓辺を振り返る。丁度空に打ち上がった花火が、真っ赤な牡丹をぱっと咲き誇らせたところだった。
美智子は、夏祭りに行くつもりはなかった。
だってあそこには、故郷を模したあの場所には、大切に大切にしまい込んでいた思い出の数々が見え隠れしている。
同じではない。箱庭の世界だ。本当の故郷ではない。
けれど、記憶はそんなことなどお構いなしに美智子の脳裏に思い出を重ねさせるだろう。今でさえ、エミリーと白無常の二人を見て、夫のことを思い出してしまった。
だからきっと、景色の懐かしさに、ひとりの切なさに、戻れない悲しみに暮れて、美智子は押し潰されてしまう。
美智子は、そっと瞼を閉じる。涼風のような男の微笑みが、陽炎のように揺らめく。
そうなってしまったら、祭りどころではない。人ならざる者になってしまった自分が、そのあとで何をしでかすかわかったものではない。
だったら祭りには行かず、ここで小さな音や光を拾って過ごす方がずっといい。
「……いややわ、一気に静かになってもうて、ついしんみりしてしもた」
美智子はゆるりと首を振る。テーブルに寄り、急須と湯呑をお盆に載せて両手で持つ。
新しいお茶を入れてこよう。ついでに遊び倒して帰ってくるだろう彼らのために、お湯を張っておいてもいいかもしれない。
そうつらつらと考えながらドアノブを回そうとして、しかし美智子は手を引っ込めてさっと下がった。
「美智子ー!」
「お祭り行こー!!」
バァン!と勢いよく開いたドアから、二つの影が元気よく飛び込んできた。かなりの速度で迫ってくる気配を察してドア前から退避していた美智子は、かしゃかしゃと音を立てながらはしゃぐ彼女らを見て目をぱちくりとさせる。
「ヴィオレッタはんに、トレイシーはん……あんさんら、まだおったん?」
トレイシーを着付けたのは随分と前だ。ヴィオレッタはその隣で、見よう見真似で人形に浴衣を着せていた記憶がある。
尋ねると、薄紫の浴衣を着せた人形を抱えてヴィオレッタはかしゃんと頷く。
「ええ、美智子を待っていたの」
「僕は先に行ってエマと遊んでたんだけど、レオがエマと回りたそうにしてたからさ。レオの屋台を僕の機械人形たちに任せようと思って、帰ってきたんだ」
そしたらヴィオレッタに会ったから、と彼女によく似合う橙色の浴衣を揺らしてトレイシーは笑った。
「うちを……?」
「うん。……って、美智子、いつもの服で行くの?」
「あら本当。もしかして、今までずっとみんなの着付けをしてくれていたの?」
「わわ、そうなの?じゃあ浴衣もまだだったりする?」
「というより、美智子のサイズに合うものがなかったのかしら?」
「そら一応、あるにはあるけど……」
自分でもわかるほど困惑した声がこぼれた。行かないつもりだったから、当然浴衣など選んでいない。
うちのことは気にせいで、二人で行ってきーな。そう提案しようとした矢先、彼女らはぱっと顔を輝かせて美智子に詰め寄った。
「じゃあ私たちが美智子の浴衣を選んでもいい?」
「え?」
「僕のは美智子が選んでくれたし、今度は僕たちが美智子のを選んであげるよ!」
「何色がいいかしら?」
「美智子は何色が好きなの?やっぱり赤?」
「でも、折角だし他の色を纏った美智子も見てみたいわ」
「美智子用の浴衣ってどこに置いてあるの?」
矢継ぎ早にくる質問に、美智子は目を白黒させながらええと、とようやく口を開く。
「うち用もんは、そこに……」
紡いだ言葉は断りではなく、最後に耳に捕えたヴィオレッタの問いへの答えだった。衣装棚を指差すと、二人はかしゃかしゃとてとてと歩いて両開きの扉を開ける。
「どれどれ……みんな素敵な色ね。どれも美智子に似合いそうだわ」
「この赤い魚のはどうかな?それともこの大きな花のやつとかは?」
「こっちのも素敵じゃない?夜に咲く花。確か、これは美智子の国の花でしょう?」
「そうなんだ?ヴィオレッタ、よく知ってるね」
「前に美智子に教えてもらったの」
少し誇らしそうにヴィオレッタは返す。トレイシーは夜桜を写し取ったかのような浴衣を見上げて、ほう、と息をついた。
「綺麗……うん、美智子に似合いそう」
くるりと蝶々結びをした帯を揺らして少女は振り返る。ヴィオレッタもかしゃかしゃと六本の足を器用に動かして美智子の方へ向き直った。
「美智子、どうかしら?」
「これを着て、一緒にお祭り回ろうよ」
そう告げて、二人はにこにこと笑う。ただただ無邪気に。一緒に行くことを、素直に楽しみにしている顔で。
あれよと言う間に話が進んで呆気に取られていた美智子は、その笑顔を見て、やがて毒気を抜かれたように気の抜けた笑みを浮かべた。
行くつもりなどなかった。行ったって苦しいだけだから。
だけど、これには流石に、かなわない。だって、彼女達と一緒に行きたいと思ってしまった。
まいりましたわ、と美智子は内心で両手を上げる。
「……そうやね。実は、うちもその浴衣がええなぁと思っとったのよ。ほな、着替えるまでもう少し待っとってくれはる?」
自然と吊り上がった唇でそう言えば、二人はぱぁっと嬉しそうに顔を輝かせた。
「よかった!もちろんよ、部屋の外で待ってるわ」
「永眠町に行ったらりんご飴食べよう!すっごく美味しかったんだ!」
飛び跳ねんばかりに喜びながら、ヴィオレッタとトレイシーは部屋から出ていった。楽しげな話し声が聞こえてくるから、きっと部屋の前で待っているつもりなのだろう。
どんどどん、と太鼓の音が聞こえる。低い音に合わせてちんしゃん、と甲高い音が重なり合う。
美智子はそっと瞳を閉じて、深い呼吸をひとつする。それからゆっくりと面を上げて、彼女たちが選んでくれた浴衣に目を向けた。
焦がれるあの人は隣にいない。その事実は、やはり胸をしくしくと傷ませるけれど。
「折角のお友達の誘いやもんなぁ」
仕方ない、というように聞こえそうな言葉は、しかし穏やかな声音が見事に裏切っていた。
彼女らと祭りを巡るなら、思い出だけに囚われるようなことにはならない気がした。だって間違いなく楽しい思い出が沢山できるのだから。
どん、と何度目かの花火が空に打ちあがる。花が開く一瞬の輝きに照らされた美しい横顔には、誰もが見惚れるような柔らかい微笑みが浮かんでいた。